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ファッションキュレーター
小木“Poggy”基史

次世代の未来を切り開く――。ファッションを突き詰めた彼だから描ける新たな夢。

「これまでは自分のためにファッションを突き詰めてきたけど、これからは次の世代の人たちの可能性につながるような取り組みをしていきたい。そして、日本の良さをもっと海外に発信していきたい」

国内外に影響を与えた、大胆かつ独創的な“Poggy”スタイル

2020年12月に開催した『Porsche Taycan Popup Harajuku』のトークイベントや、Porscheのクルマへの哲学を紐解く『Inside Porsche』で、ファッションやアートを絡めながらPorscheの魅力を語ってくれたファッションキュレーターの小木“Poggy”基史さん。今、彼の“Bucket List”にはどんな夢が入っているのだろうか。

彼がファッションの世界に飛び込んだのは20歳のときだという。友人の勧めでセレクトショップ「UNITED ARROWS」で働き始めると、周囲の同世代の友人たちが遊びや女の子に夢中になるなか、彼は時間やお金、好奇心といったすべてをファッションに注ぎ込んできた。

「そのなかで転機となったのが、2006年に社内ベンチャー制度を利用してオープンした『Liquor,woman&tears』だったかもしれません。そのころ、まだ日本ではストリートファッションとセレクトショップの間には隔たりがあったのですが、すでにアメリカではヒップホップのキングたちがトラッドなファッションに身を包んで、ハイエンドなファッション誌の表紙を飾っていました。僕はそれに影響を受けた若い人たちが必ずセレクトショップに来ると感じたんです」

誰よりも早く時代の潮目を感じとった彼は、ストリートとトラッドという、これまで混ざり合うことのなかった二つのシーンをミックスしたスタイルを提案。彼の独自のスタイルは、国内はもちろん、海外のデザイナーやクリエイターたちにも大きく影響を与え、業界に新たな風を吹き込んだ。

ファッションの領域を超えた多彩なジャンルとの融合

2018年、彼は20年以上勤めた「UNITED ARROWS」から独立し、新たな領域へと足を踏み入れた。それはさまざまなジャンルのプロフェッショナルたちと関わり合いながら、現代アートなどを融合した新たなファッションシーンを提案することだった。

「僕らはこれまでパリコレや東京コレクションのスケジュールに合わせて動いてきたけど、アメリカのストリートカルチャーの祭典『ComplexCon』を見て、もうファッションだけではその良さを多くの人に伝えることは難しいなと感じたんです。僕はこれまでファッションしか携わってこなかったから、独立を機にいろいろなジャンルの方たちと絡んでみたいという思いがありました」

社会や価値観が多様化している今、これからは柔軟な視点やボーダレスな思考でファッションを捉えることが重要だと考えたのだ。独立後、彼はアートトイやアート、セレクトショップを集結したスタジオ「2G」のクリエイションに関わるなど、新たな可能性を広げている。

「今後、ファッションの世界も大きく変わってくるかもしれません。でも、大事なのは、ファッションはお金で買えるけど、その人から滲み出る“スタイル”はお金では買えないということです

今こそ、日本の良さや面白さを世界に届けたい

独立から4年目を迎えた今、彼は次のステップを考えている。

「今年は、もう一度、自分のもっとも得意とするファッションに重点を置こうと思っています。これまでは自分のためにファッションを突き詰めてきたけど、これからは家族や仲間、そして次の世代の人たちの可能性につながるような取り組みをしていきたい。たとえば、日本の面白いデザイナーが世界に挑戦できるような環境を作ったり、日本の良さをもっと世界に発信していきたいと思っています」

長い間、日本のファッションの魅力を海外へ響かせてきた彼だからこそ、描ける夢だ。でも、その一方で「小さな夢もたくさんある」と彼は笑う。

「たとえば、ヴィンテージの洋服でも欲しいものはたくさんあります。僕は、高価なデッドストックにはあまり興味がなくて、ボロボロでも味や雰囲気のあるものが好きなんです。あと転換期を迎えたころのモデルにも惹かれます。ニューバランスの990 V2だったり、最近手に入れたPorsche 911 type 996などもそうですね。type 996は、今の僕のファッションだったら、これがいいだろうなと想像して辿り着いたクルマ。レトロ過ぎず、今と昔の両方の時代を行き来できる感じがいいですね」

“新しい時代”といえば、近年はファッションの世界にもデジタル化の波が押し寄せている。なかでもNFT(Non-Fungible Token/非代替性トークン)は、ファッションとの親和性も高いことから名だたるブランドが次々と参入し始めた。

「NFTやメタバースによってファッションの世界も大きく変わってくるかもしれません。でも大事なのは、“ファッション”はお金で買えるけど、その人から滲み出る“スタイル”はお金では買えないし、終わりがないということ。だから、自分にとって何がリアルなのか、それをちゃんと突き詰めないといけないですね」

最後に「ずーっと思っているのは、無重力のフィッティングルームのあるお店を作ってみたいんです。今までの常識が覆されますよね、きっと(笑)」と壮大な夢を語った。

彼だから成せる夢、憧れを満たす小さな夢、そして、心躍る未来への夢。彼にとって夢は一つではないということだ。