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Episode 1:Kite Surfer Jun Adegawa

© Pedro Gomes

UNSTOPPABLE

挑戦をやめない限り、
僕は前進していける

JUN ADEGAWA

with Porsche Taycan 4 Cross Turismo

「波に乗る」とひと口にいっても、そのスタイルは多岐に渡る。阿出川潤はサーフィンのみならず、カイトサーフィン、スタンドアップパドルサーフィン(SUP)、フォイルサーフィン、ウインドサーフィンなど、海を舞台とする数々のアクションスポーツに精通するオールラウンダーだ。スウェルの規模、波のサイズ、風、潮の干満、海底の地形。自然がもたらすさまざまな条件が絡み合い、刻一刻と変化する海原と相談しながら、阿出川はその時もっともベストな方法で波と共鳴し、風をとらえる。サーフィンに不向きなコンディションも、カイトサーフィンならば理想のコンディションになり得る。逆もまた然り。退屈とは無縁だ。

「僕は本来とても不器用な人間です。でも、新しい扉をひとつひとつ開いていくうちに、気づいたんです。道具や乗り方が変わっても“波に乗る”という本質は変わらない。自分で壁をつくる必要はないって」 阿出川潤。常にチャレンジを忘れず、殻を破り続けてきたアンストッパブルな生き様はいかにして導かれたのか。約束の日、奇しくもホームである千葉・九十九里を大型のスウェルがかすめた。阿出川は波と共に生きている。自然と人、どちらに合わせるべきかは明白だ。私たちは時間を変更し、阿出川は波を求めて南房総へ向かった。そしてハードなラウンドを終えた夜、家路に着いた阿出川は穏やかな表情を称え、席についてくれた。

「ジャンルに捉われず、波を攻略していくプロセスは純粋に楽しい」

© Pedro Gomes

今日はいい波に巡り会えましたか?

南房総の平砂浦を考えていたのですが、風の影響が大きくて千倉で入りました。サーフィンをするつもりでしたがかなり掘れあがる波だったので、波がブレイクする前のうねりから滑り出せるSUPでやりました。良かったですよ。最近はカイトやフォイルサーフィンが多かったので新鮮でしたね。

ベースとなるスタイルはあるのですか?

どれかひとつというのは本当になくて、海にいるのがとにかく好きなんです。その海を見て、風を感じて、ベストなものを選びたい。オンショア(海から陸に向かって吹く風)になると海面が荒れてサーファーはがっかりしますが、カイトサーフィンならラッキーに変えられる。誰もいない貸し切りのフィールドは、まだまだありますよ。

決まって使う肩書きはありますか?

よく聞かれるのですが、自分でも何と答えていいやら……。サーファー、オーシャンスポーツアスリート、ウォーターマン、さまざまな呼び方をしていただいて光栄ですが、天井知らずの世界の高みを知るほど、自分で決めるのはおこがましいというか。競争に重きをおくアスリートでもなく、自分のこころとからだ、経験や技術を注いで状況に応じてギアを選びながら、海との共鳴を深めるのが僕の生き方です。究極を言えば、ジャンルを問わずうねりや波に乗る「サーフィン道」を追っているという点で、サーファーというのがシンプルかもしれませんね。

ウォーターマンと呼ばれることも多いと思いますが、潤さんにとってウォーターマンとは?

超人、でしょうか。オーシャンスポーツに精通するだけじゃなく、海に関する知識や経験、技術を高いレベルで備えている人たち。ハワイの3大サーフレジェンドであるエディ・アイカウ(1946-1978)などは、星を見て、風や潮流をよんで航海する技術を身に着けていました。ただ波に乗るだけでは真のウォーターマンという領域にはたどり着けません。

© Pedro Gomes

潤さんのようなオールラウンダーは日本では稀有な存在です。なぜ今のようなスタイルを志すようになったのですか?

19~24歳のときにマウイ島に住んでいた経験は大きかったです。マウイの人々にとって海は人生と共にあり、サーフィンとかウインドサーフィンといった垣根に縛られず、ピュアに海を楽しんでいました。すべてを高いレベルで。そんな生き方が僕の理想のひとつになっています。ジャンルに捉われず波を攻略していくプロセスは純粋に楽しいし、道具や乗り方が変わることで、それまで気づけなかった新しい海の領域を学べるのは本当に幸せです。そして、僕の在り方は日本では特殊かもしれませんが、こうしてさまざまなオーシャンスポーツを続けられているのは、「TED SURF」を支えてくれるお客さんのサポートがあるから。ショップにはSUPから始めた人、カイトから始めた人、フォイルから始めた人など、さまざまです。勧めた張本人である僕がやめるわけにはいきませんよね(笑)。

今回のタイカン・クロスツーリスモ(以下タイカンCT)の映像では、カイトフォイルも披露してくれています。カイトで風を操りながら、大きなハイドロフォイル(水中翼)をつけたボードに乗って、まるで宙に浮いているように滑走するフォイルサーフィン。両者をミックスしたライディングを生で見たのは初めてでした。

フォイルサーフィンはまだ生まれて4年ほどの新しいカテゴリーで、僕の経験値もほぼ同年数ですが、本当にゲームチェンジャーというか、これまでのウォータースポーツとはまったくちがう楽しさがあります。大きな波じゃなくても、オンショアでも、川でも楽しめる。さまざまな乗り方がありますが、なかでもカイトで風を操りながらフォイルサーフィンをするのは、トップクラスで難易度が高いかもしれません。でも、それができればクルージングもエアーもメイクできるんですよ。

「自然の変化を肌で感じているサーファーが果たせる役目は大きいはず」

サーファーにとってクルマは欠かせない相棒です。潤さんにとってクルマとは?

たくさんのギアを載せるので利便性はもちろん大切ですが、それだけがすべてじゃないとも思っています。海へ向かう自分自身をイメージして、しっくりくるかどうか。ライフスタイルがトータルでパッケージされた存在でしょうか。

これまでポルシェに抱いていたイメージと、映像に登場するタイカン4クロスツーリスモの印象はちがいましたか?

ポルシェと聞くとハイソサエティでラフさが許されないというか、砂と水にまみれた自分の生き方とは相反する存在なのかなと思っていました。でも、今回タイカンCTに乗ってみて、ラフに付き合ってもかっこいいし、あらためてポルシェってすごいな、と。ラゲッジも広く、僕の場合だとサーフィンとカイト、カイトとフォイルなど、コンビネーションでギアを積んでいけそうです。

タイカン4クロスツーリスモの0~100km/h加速は5.1秒(タイカン・ターボCTは3.3秒)。最高速度は220km/hターボCTは250km/h)。EVでありながら本格的なスポーツカーの領域です。そのうえで、フル充電での航続距離は389~456km(ターボCTは395-452㎞)。急速充電なら0→80%充電まで93分だとか。

加速もダイレクトだし、ハイウェイなどは本当に気持ちがいいでしょうね。ドアの重厚感などから安全性の高さも伝わってきました。波を求めて走り回るサーファーとしては、EVということでトリップ中に充電が切れたら、というのが心配でしたが、充電施設もびっくりするくらい全国に配備されているというのを知って、不便なく旅ができそうです。ガソリンを使わず、環境に負荷を掛けずに波をサーチできるなんて素敵ですよね。

豊かな自然あってのオーシャンスポーツ。実際、子どもの頃から海と接してきて、環境の変化は感じますか?

すごく感じますね。たとえば千葉だと夕立を越えるレベルの豪雨が降ったり、自分の幼少期と比較して明らかな変化を感じる事象が増えました。また、日本には本来、春夏秋冬があり、風の吹き方も季節ごとに固有のパターンがありました。それが次第に春と夏、秋と冬の2パターンのようになってきて、まるで亜熱帯のようです。風は海の流れや砂の動きにも影響を与えますし、海の砂が動けば波も変わります。さらに、そこに住む魚介類にも大きな影響を及ぼします。最近だと、ホームである九十九里の環境の変化や開発の是非に関する僕なりの考察を、アンバサダーをつとめているパタゴニアのウェブサイトに寄稿したりもしました。

美しい海を次世代へつなぐために意識していることもありますか?

僕はサーファーが果たせる役目というのはけっこう大きいと思っています。誰よりも海にいて、その変化を肌で感じているから。子どもにとって育った環境というのは大きく影響するもので、ゴミを捨てるのが当たり前の環境で育ってしまうと、それが普通のこととして受け継がれてしまいます。だから僕たちが「海はきれいな姿が当たり前」という文化を築き、伝えていけば、次世代はそれが当たり前になります。海に落ちているゴミがあれば拾う、草の根運動かもしれませんが、意識を高めていくことがとても大切ですよね。

「人生最大の波に乗るのは、まだまだこれから」

© Pedro Gomes

屋号の「TED」は日本のサーフィン黎明期を築いた大レジェンドのひとり、お父様であるTED阿出川さんが由来。潤さんが受けた影響は大きいですか?

父はとにかく忙しい人で、夏休みに家族でどこかへ行くなど、普通の子供が経験するような思い出があまりありません。子供のまま大人になったような人で、周りを巻き込んで影響を与えるパワーはとても大きかったのですが、いざ家族となると、それはそれで大変でしたよ(笑)。決して理想の父親像ではなかったと思いますが、「何かをはじめたら、何かを成し遂げるまでやり続ける」という姿勢は学びました。そして自分がショップを営むようになって気づきましたが、サーフボードを売ることは誰でもできる、でも、それを手にした人のライフスタイルを豊かにする、新しい世界観を広めていくというのは、誰でもできることではありません。それを父は当時からできていたんだな、と。

そんな潤さんも今では父親で、息子と娘、ふたりのお子さまがいると思います。父親として大切にしていることはありますか?

息子はいま9歳で、海が楽しくなり始めているようです。僕を見ているからかは分かりませんが、最初にサーフィンをはじめて、SUPでも波に乗るようになり、今年はカイトが楽しいみたいです。風をとらえて海原を自由に走り回れるのが気持ちいいんでしょうね。ジャンルの壁や偏見がないのはいいことだと思います。いつか高いレベルで海やオーシャンスポーツに精通する大人になってくれたら嬉しいですし、同じ景色を見たいですね。娘はまだ5歳なので、そういうのはこれから。父親として……という確固たるものはないのですが、僕自身これまでたくさんの 失敗を経験してきたので、子どもが成長する過程でもし判断を誤りそうなことがあったら、アドバイスをしてやれたらと思っています。

現在は40代。潤さんご自身はサーファーとしてまだまだ成長できる、うまくなれると感じていますか?

それは思います。自然を相手にするオーシャンスポーツの世界は、経験がすごく大きな意味を持ちます。若いときは心臓をばくばくさせながら挑んだ波でも、今は冷静に状況を見つめられるし、潮やうねり、風を観察できます。経験を重ねたからこそ見えるものが、この年になって見えるようになってきました。サーファーである限り、大きい波に挑むのは永遠のテーマです。それは山登りといっしょで、目標をひとつひとつクリアしながら高みを目指す世界。体力はもちろん大切ですが、経験はそれ以上に必要です。なので、人生最大の波に乗るのは、まだまだこれからだと思っていますし、そこにフォーカスし続けるのは僕の大きなモチベーションです。それに、僕が20代のときに40~50代だった大先輩たちは今60~70代ですが、今も多くの方がバリバリの現役ですからね。まだまだですよ。

ポルシェを愛する世代もまた広いです。もしタイカンに興味があるさまざまな世代の人たちが今回の潤さんの映像やこの記事に触れて、ウォータースポーツに挑戦したいと思っても、遅くないですか?

ぜんぜん遅くないですよ!気持ちさえあれば、それが何歳であったとしても。仕事を頑張っている人たちは、時間のマネージメントが上手です。限られた時間を駆使して情熱を注ぐし、目標設定もまた上手なので、実際にあり得ないようなスピードで上達する方もいるくらいです。なにより、大人になってから勇気を出して新しい扉を開こうというハートを、僕は尊敬しています。そういう方々のチャレンジ精神はピュアですよ。

最後の質問です。潤さんの座右の銘は?

「最初からうまくいくことなんてない」かな。座右の銘と言えるかは分かりませんが、それが海から学んだ大きなひとつです。それは海の魅力でもあります。うまくいかないから、自分が持ちうるすべてを総動員して波に挑んできました。メイクできることもあれば、容赦なく跳ね返されることだってある。仕事も、人生もそうですよね。成功が約束されているチャレンジなんてありません。そして、あきらめない限り挑戦はずっと続きます。面白いことに、これまでさまざまなオーシャンスポーツと出会ってきましたが、年を重ねるにつれ、メイクできたり、順応できるまでの時間が短くなっています。きっと、これまで蓄えてきた技術や知識、経験が役立って、応用力になってくれているのだと思います。僕は本来とても不器用な人間です。でも、新しい扉をひとつひとつ開いていくうちに気づいたんです。道具や乗り方が変わっても“波に乗る”という本質は変わらない。自分で壁をつくる必要はないって。最初からうまくいくことなんてない。でも、挑戦をやめない限り僕は前進していける、そう信じています。

© Pedro Gomes


Profile

阿出川 潤

さまざまなオーシャンスポーツを高い次元でこなす日本屈指のオールラウンド・サーファー。出身は千葉・太東。現在は大網白里にて1964年に創設された老舗『TED SURF』を切り盛りしながら、オーシャンスポーツの多彩な楽しみ方を伝播している。先代は日本サーフィンの礎を築いたTED阿出川氏。父の名が先立つ時代もあったが、今では阿出川潤の活躍によってTED SURFの由来をはじめて知るファンも多い。

TED SURF

Profile

Interview /Yuichi Toida Blue.Magazine